分析の知られざる側面

『フリーコノミクス』の著者、スティーヴン・ダブナー氏が語る

人財   |   Melissa Burroughs   |   2022年8月30日 読了時間の目安:14
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Melissa Burroughs とスティーヴン・ダブナー氏

 

最近、Alteryxのオンラインイベント「Alter.Next:勝利に向けてアナリティクスを加速」にて、世界的ベストセラー『フリーコノミクス』の著者であるスティーヴン・ダブナー氏をインタビューさせていただきました。スティーヴン・ダブナー氏は、『フリーコノミクス』シリーズの著者であるだけでなく、「フリーコノミクスラジオ」ポッドキャストのホスト、受賞歴を誇るジャーナリストとしても活躍されています。そして、あらゆる規模や業種のビジネスを探求してきた幅広い経験を持ち、過去20年にわたり、数百もの組織の「知られざる側面」の研究に情熱を傾けています。ダブナー氏は、難解な研究分野から世界のトップ企業のベストプラクティスまで、さまざまな経験を通じて得た洞察を楽しくわかりやすい言葉で表現し、多くのファンを魅了しています。

 

今回のインタビューでは、ビジネスにおけるデータや分析の課題と価値についてお話を伺いました。ダブナー氏は、現代のあらゆる企業に役立つ価値あるガイダンスを共有するだけでなく、企業がより大きな成功を収め、競争上の優位性を築き、ビジネスのレジリエンス(回復力)を高めるために、分析がいかに重要であるか、そしてその恩恵は企業が予期しない領域にも及んでいることをお話しくださいました。さらに、私たちの身近にあるデータをより良く活用するためのアプローチもご教授くださいました。今回は、ダブナー氏との対談から得た貴重な学びをご紹介します。 Alter.Nextのインタビューの完全版の動画も、ぜひ併せてお楽しみください。

 

 

分析革命は「象」のようなもの

 

まず私は、現代のデータと分析のあり方について、ダブナー氏にご意見を伺いました。ダブナー氏は、データ革命や分析革命を、「6人の盲人と象」というインドの寓話に登場する象のような存在と考えているということでした。以下は、インタビューでのダブナー氏の実際のご発言からの抜粋です。

 

「データ革命にしろ分析革命にしろ、 人によって 受け取り方はさまざまです。 データや分析を日常的に活用し、その本質に迫っている方であれば、その全体像や自分のしていることを明確に理解できると思います。 しかし、一般企業、 つまりデータや分析を専門としていない企業の経営者であるとしたら、 データの重要性を理解していても、その本質までは理解していないかもしれません。 さらに、消費者、民間企業、公的機関など、どのような立場に身を置いているかによっても、 データ革命はまったく別の意味を持ってきます。 多くの人にとって、それは プライバシーの侵害を意味します。」

 

実際に、分析革命によって、多くの人々がデータに対して不信感を抱くようになっています。 ダブナー氏からもご指摘があった通り、現代において「データと無縁の生活を送れる人」は存在しません。 ビジネスがビッグデータに基づいて運営され、機械学習アルゴリズムが一般の方々の日常的な意思決定に大きな影響を与えている今日の社会では、「データを活用しない」人は、消費者側であれビジネス側であれ、明らかに不利な立場に立たされることとなります。 しかし、ダブナー氏は、誰もがある種の「データ人間」になることができ、それは多くの人が考えるよりも簡単で楽しいことだとおっしゃいました。

 

 

分析とテクノロジーは別物

 

ダブナー氏は、分析革命に対する人々や企業の反応に言及し、そこには共通する誤解があり、分析的思考と技術的思考が混同されているということでした。 そして、「数学的」な人間でなくても「分析的」思考によって成功を収められると断言したうえで、両者に優先順位をつけるとしたら、「分析的」思考の方がより重要であると説いています。 その部分に関するダブナー氏のご発言を以下に引用します。

 

「より多くの人々が、 データそのものが素晴らしいツールであり、 分析がデータからストーリーを紡ぎ出す便利な手段であることに 気づき始めています。 そして、データに対して適切な質問を投げかけ、 その結果をもとに、 分析に不慣れな人たちでも理解できるようなストーリーを組み立てるというアプローチが定着しつつあります。 」

 

また、ダブナー氏は、データを情報として読み取り、理解、作成、伝達すること、いわゆる「データリテラシー」の重要性を強調し、これによって誰もが新たなアイデアや課題を共有し、一丸となって分析に取り組むことが可能になると説いています。データリテラシーの向上を図るうえで、特定のテクノロジー、フレームワーク、コーディング言語を習得する必要はありませんし、むしろ、データリテラシーは批判的思考に近いものだと言えます。

 

では、ビジネスにおけるデータリテラシーとはどのような状態や状況を指すのでしょうか? データリテラシーの高い人材は、以下のようなことを実現できます。

 

チームと組織に関連するデータを把握: たとえば、オーストラリアの Web サイトで消費者の行動を理解する際に、ドイツの消費者の実店舗での製品の好みに関するデータを利用しても意味がありません。

 

アルゴリズムの結果について疑問を持つ: ご提案中のお客様が 2 人いて、うち 1 人がもう 1 人よりも購入の可能性が高いと CRM が判断したとします。その理由は何でしょうか? アルゴリズムはどのような行動、人口統計、その他の要因を考慮したのでしょうか? なぜ、そのお客様が他のお客様よりも有望と判断されたのでしょうか?

 

主要指標と遅行指標を区別・比較する: たとえば、建設現場の安全性のモニタリングにおいて、ハードヘルメットを着用する作業員の割合(先行指標:直接管理できる可能性があるもの)と、ある月の現場での事故件数(遅行指標:介入がどの程度効果であったかを示すもの)を比較することが可能となります。

 

構造化された実験を設計・実施し、理論を検証する: Web サイトの運用時に、A/B テストを活用することができます。つまり、2 つの異なる構成の Web サイトを、さまざまなサイト訪問者にランダムに提供し、「対照群」と「実験群」を作成します。 各グループの行動(サイトでの滞在時間、クリック数、購入の有無など)を観察することで、「対照群」と「実験群」のどちらが期待通りの結果を生むかを把握することができます。

 

データをストーリー仕立てにしたり、ビジネスケースに取り入れしたりして、ビジネスリーダーの理解を促す:新しい製品の設計時に、ユーザーテストの結果をリーダーシップと共有したい場合は「ユーザーの80%が設計Cを好み、ユーザーの50%が設計Dに不満を感じている」といった感じに分かりやすく説明できるようになります。また、一日の使用状況、友人に購入をすすめる理由、製品を使用している間の感想など、個々のユーザーストーリーを加えることで、全体像を仔細に把握し、リーダーがより多くの情報に基づいて意思決定を下すことができます。

 

 

上記の例からも分かる通り、データリテラシーはさまざまなビジネスシーンで役立ちますし、 こうした行動を起こすために、技術的な専門知識や教育は必要ありません。

 

 

数値的な世界が、より良い世界を生む理由

 

ダブナー氏は、日々の生活やビジネスにおけるデータリテラシーの実用的な価値に加え、 私たちがデータに慣れ親しむことで、より良い世界が実現することをお話しくださいました。 以下に、ダブナー氏の実際のご発言を引用します:

 

「世の中がもう少し数字に強くなってもいいと思います。 そうなれば、 政治家の選挙広告を見て無駄な情報を垂れ流しているだけだと、 理解できるようになるからです。 例を挙げますと、 去年 1 年間で 2 倍になったものがあるとします。 でも、もともとのベースが「1」だったとしたら、 大した意味はない、 ということなのです。」

 

前述した通り、データリテラシーは客観的な問題解決を可能にします。 データリテラシーを備えた組織では、ビジネス上の意思決定を、直感、規制概念、過去事例、印象などに基づいてではなく、実証可能な事実に基づいて行うことができます。

 

ですから、データリテラシーが今や必須のビジネススキルになりつつあるのは、当然だとも言えます。データは、現代の市場におけるイノベーションを加速させています。企業は機械学習とAIを活用して、データからあらゆる洞察を引き出し、テクノロジーの急速な変化に対応しています。機械学習のアルゴリズムはもはやすべてのビジネスシステムに取り入れられているといっても過言ではありません。組織が扱うデータが増大し続ける中、「データ担当者」だけでなく、全社員がチャレンジングな世界経済においてそれぞれの役割を全うし、組織の競争力を強化するためにデータリテラシーを身に着けていく必要があります。MITのSloan教授は次のように述べています。

 

「データがあふれる世界では、データリテラシーを持つ人材をより多く抱える企業が勝利を収めるでしょう」
情報やその限界、そこから導き出される結論を批判的に吟味できるようになれば、不完全なデータや、意図的に操作されたデータなど惑わされ、誤った判断をする可能性が格段に低くなります。 なぜなら、データがどのように作成されたかを理解し、アルゴリズムの結果に異議を唱えることができるナレッジワーカー(知識労働者)は、「システム」が下した判断が常に正しいと信じている人よりも、ビジネスに安定と成長をもたらすことができるからです。

 

世界の主要企業において、データリテラシーがどのように重要視されているかについては、「IDC Survey: Importance of Data Literacy (IDC調査: データリテラシーの重要性)」で詳しく解説されていますので、ぜひ併せてご覧ください。

 

 

あらゆるビジネスはデータビジネス

 

フリーコノミクスラジオでの仕事がデータと分析にどのように関連しているか、ダブナー氏にお尋ねしたところ、 次のようにお話しくださいました。

 

「フリーコノミクスでやりたかったことは、真実を語ることです。 それはジャーナリズムであり、ノンフィクションであり、さらには学者やその他の専門家とのインタビューから得た多くのデータ集大成でもあります。」

 

ダブナー氏が手掛けたベストセラー『フリーコノミクス』では、先行きの不透明な経済状況について、次のように説明しています。

 

「経済学は、お金の研究と誤解されていることが多いように思います。 しかし実際には、経済学は、インセンティブ(誘因)を研究する学問です。つまり、人々が「自分の欲しいものや必要なものを手に入れる方法」、特に「同じものを欲し、必要としている人と競争し、手に入れる方法」を研究する学問なのです。 端的に表現すれば「どうすれば最適化できるか」ということです。 どうすれば、各自が望むものを手に入れ、社会をより強固にするために最適化できるのでしょうか? それが大きな課題です。」

 

経済学は「ある種の最適化の問題である」というダブナー氏の視点は目から鱗でした。 確かに、業界や事業部門に関係なく、私たちの誰もがさまざまな最適化を試みています。 サプライチェーンでは、「安全性や監査性を犠牲にすることなく、いかに早く、安く、必要な場所に商品を届けることができるか」という最適化が問われるかもしれません。 また、CFO のオフィスでは、「コストを節約し、財務のコンプライアンスを維持しながら、資産、資本、株主資本に対して最高のリターンを生み出すにはどうすればよいか」という最適化が問われるかもしれません。

 

ビジネスや部門によってアプローチは異なりますが、あらゆるビジネス最適化に関する問題はデータで対処する必要があります。つまり、データを分析する必要があります。では、より多くの優れたデータや、より多くの優れた分析スキルを備えることは、より良いビジネス成果につながるのでしょうか?経験上、この答えは「イエス」です。国際分析協会の調査によれば、分析手法が確立されている組織ほど、高い業績を達成していることが分かっています。

 

この概念は「分析の成熟度」と呼ばれ、一般に 5段階で評価することができます。分析成熟度の第1段階にある組織は、データの整理や理解に苦労しており、主にリーダーシップチームの意見や直感に基づいて重要なビジネス上の意思決定を行っている可能性があります。一方で、分析成熟度の第5段階にある組織は、データと分析によってビジネス上の意思決定を最適化し、分析を活用して競争上の優位性を獲得し、業界全体に多大なインパクトをもたらしている可能性があります。

 

自社のビジネスが分析成熟度のどの段階にあるのかを明確に把握することは、業界内での競争力を高め、短期的・長期的な投資を適切に計画する上で非常に重要です。自社のビジネスのベンチマークを行いたいとお考えであれば、Alteryxの分析の成熟度の評価ツールをぜひご活用ください。15分以内に終えられる簡単なアンケートにお答えいただくことで、組織のデータと分析の長所や課題をまとめた個別のレポートと、分析の活用を次のステージへと引き上げるために役立つリソースをお受け取りいただけます。

 

 

分析の成熟度を高めるには?

 

企業同様に、個人がデータや分析の活用を促していくことも大切です。 ダブナー氏は、「いくつかの簡単な質問で、誰もがすぐにデータをより良く理解して活用できるようになる」とお話しくださいました。 以下に、ダブナー氏の実際のご発言を引用します:

 

「誰にでもできる 基本的な質問なのですが、まずは「その主張が正しいことを示す最大の証拠は?」と聞いてみます。 これはデータセットの規模や偏りの有無を把握するのに非常に良い方法です。データセットの代表性を問うことで、価値ある結論を 導き出すために十分な人数や時間分のデータが含まれているかどうかを判断できるようになります。」

 

ダブナー氏は、このトピックについて深く掘り下げ、欠損データ、データの取得方法、データの種類、データの使用方法などに関する質問を教えてくださいました。ダブナー氏のデータに関する重要な質問についてより詳しくお知りになりたい方は、 Alter.Nextでのインタビューをぜひご覧ください。

 

データリテラシーの向上に向けた第一歩は、質問を投げかけることから始まりますが、分析スキルを高めるためのアプローチは他にもたくさんあります。 まず、自分の組織で何ができるかを調べてみましょう。 データや分析に関するトレーニングプログラムが実施されていますか? 仕事以外でコースを受講したり、受講費の援助を受けられたりする制度はありますか? 分析に関する相談に乗ってくれたり、知識を提供してくれるメンターはいますか?

 

社内に気軽に相談できるアナリストやデータサイエンティストがいなければ、データを業務に取り入れている人とつながってみましょう。LinkedInなどのネットワーキングサイトやローカルのネットワーキンググループの活用をおすすめします。データの世界で人脈を築くことができれば、共通の分析プロジェクトで協働したり、自分の分析プロジェクトを他の人に支援してもらったりするチャンスが生まれます。分析愛好者の輪を広げ、データ活用のストーリーを共有し、同じ志を持つ仲間と出会い、助け合うことのできる場である Alteryxコミュニティにもぜひご参加ください。また、お住まいの地域にAlteryx ACESAlteryxユーザーグループがないかもチェックしてみましょう。Alteryxユーザーグループには、Alteryxユーザーでなくとも参加し、さまざまな学びを得ることができます結局のところ、アナリストなら誰でも、データや分析作業における最大の喜びは、共同で問題を解決し、学習することにあると言うかもしれません。

 

分析の技術的な側面に興味がある場合は、Stack Overflow や GitHub などのオープンソースサイトを探索してみることをおすすめします。 これらのサイトでは、開発者のコミュニティに無料でアクセスでき、コーディングの専門知識や活用方法に関する情報を得ることができます。

 

Coursera、Udacity、DataCampなどが提供するMOOC (大規模公開オンライン講座) もぜひチェックしてみてください。データリテラシーの向上に役立つ学習プログラムは、オンライン上に豊富に存在しており、学習者間で交流したり、フィードバックを受けたりしながら、自分のペースで開始し、学習を進めることができます。例えば、UdacityはAlteryxと提携して、ナノ学位プログラムである「 Predictive Analytics for Business (ビジネス向け予測分析)」を提供しています。

 

 

組織の分析の成熟度の改善に向けた取り組みをリードする方法

 

組織の分析の取り組みに向けた方針と優先順位の決定に関与することができれば、ビジネスのデータリテラシーを迅速に向上させるための戦術の選択肢が広がります。 まず、データリテラシーの目標を定義します。 役割によって、求められるデータや分析のレベルが異なるため、この定義について他の主要な関係者やリーダーと入念に話し合うようにします。

 

データリテラシーの目標が決まったら、社員の現在のスキルレベルを評価します。組織用に構築した評価システムを使用するか、Alteryxの分析の成熟度の評価ツールを活用して、ビジネス全体の分析能力を明確に把握できるようにします。

 

次に、データリテラシーに関する調査結果と目標に基づいて、適切な学習カリキュラムを作成します。 社内でのデータリテラシープログラムの開発は、社員が主導することも、社外の支援を受けることもできます。 このような状況の中、分析に関心のある多くのリーダーが、Alteryx の分析自動化プラットフォームを活用し、データを活用してインパクトのあるビジネス成果を生み出すトレーニングやスキルアップに取り組んでいます。

 

次に、 組織内でデータリテラシーの向上を目的としたトレーニングを提供します。複数の形式で提供できれば理想的です。 学習方法は人それぞれで、実践的なトレーニングが向いている人もいれば、自習型のコースが向いている人もいます。 データリテラシーのトレーニングに、測定可能なパフォーマンス指標を持つ実践的で価値のあるプロジェクトを組み合わせることで、プログラムの成功を確実にすることができます。 そうすることで、トレーニングの成果を加速させながら、その付加価値を明確化できるようになります。

 

さまざまな組織のリーダーが、どのようにデータリテラシーの取り組みを成功させているかを取り上げた「データリテラシーを備えた人材を育成するための4つのヒント」をぜひご覧ください。

 

最後に、社内で学習の文化を育むことで、組織の分析の成熟度を、一時的ではなく、継続的に向上させることが可能になります。 データリテラシーの欠如を咎めるのではなく、好奇心を刺激するような環境を構築しましょう。 このようにすることで、虚栄心からデータを隠したり、データを改ざんしたりするなどの、不適切なデータの扱いを防げるようになります。 また、他のリーダーからの支持を取り付けるにしましょう。あらゆるトップが取り組みに関与し、望ましい行動や成果を示していくことが肝心です。

 

分析の自動化: 人間中心のアプローチでビジネスの成果を変革」では、組織のデータや分析の活用の改善により、優れたビジネス成果を推進するための成功戦略を深く掘り下げています。分析自動化によってデータリテラシーを向上させ、圧倒的なビジネス成果をスピーディーに実現している企業の事例を数多く取り上げていますので、ぜひご覧ください。

 

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