どんなに計算を尽くした決定でさえ、良い結果をもたらすとは限りません。そこには常に目には見えない情報、つまり「運」の要素があるからです。ビジネスとポーカーはそうした点でよく似ており、これが元プロポーカープレーヤーのアニー・デューク氏が意思決定のエキスパートとされる所以でもあります。デューク氏は20年にわたり、世界のトップポーカープレーヤーとして第一線で活躍し、これまでにポーカープレーヤー向けの数多くの教則本や、十分な情報がない中で意思決定を行うためのハウツー本を2冊執筆しています。このような輝かしい経歴をお持ちのデューク氏に、Alteryxの財務部門上級主任役員であるジャワド・ラシードがインタビューを行い、認知心理学の研究とポーカーゲームでのプレー経験から培った意思決定における教訓と戦略についてお伺いしました。
十分な情報がない中で、データ分析を利用してビジネス上の意思決定を下す方法
プロレベルでは、ポーカーのハンドには約 2 分かかります。その間、プレーヤーは 20 以上の意思決定を下し、対戦相手がフォールドやブラフをする頻度や特定のカードが出る可能性などの細かい変数をコンスタントに評価します。
つまり、プレーヤーは不完全な情報を基に、最適な意思決定を行うように最善を尽くす必要があります。 「アマチュアであろうと、熟練したプレーヤーであろうと、レイズを決めたら、そうした決定の後に起こり得る結果について、何らかの予測や推測を行っていることになります」と、デューク氏は語ります。
「アマチュアとプロの違いは、それを意識的に行うかどうかです。 プロは意思決定をいくつかの構成要素に分解し、できるだけ客観的かつ意識的に、その特定のプレーヤーをモデル化する際に利用するであろうデータについて考えます」。
デューク氏は、データ分析とビジネス上の意思決定も同じであると説明します。 意思決定者はデータ分析を用いることで、選択肢を関連する変数で分解し、それらの変数の基準率(通常の状況下でどれくらいの頻度で発生するか)を理解し、さまざまな要因が結果にどのように影響するかを分析することができます。 そうした情報を活用することで、意思決定者が認知バイアスを排除し、知識に基づいた意思決定を行うことが可能になります。
「結果主義」の問題
結果主義とは、意思決定を結果に基づいて評価する傾向を指します。 人々は、意思決定のためのインプットや未知の変数をどれだけうまく考慮したかに関係なく、何が起こったかに基づいて意思決定の良し悪しを判断してしまう傾向があります。
デューク氏は次のように説明します。「不確実性がある中で決断を下すということは、わからないことが山ほどあり、その決断がどういう結果につながるのかに運が干渉しうるということです。 決断の質と結果の質との関係を考えたとき、4 つの可能性があります。 これは、4 通りのパターンで表すことができます」。
「良い決断をして、良い結果を得ることもありますし、良い決断をして、悪い結果を得ることもあります。それは運が悪かったからです。そして悪い決断をして、良い結果を得ることもあります。それは、運が良かったからです。そして当然、悪い決断をして悪い結果を得ることもあります」デューク氏は、これら4つのことはすべて真実であり、そこで結果主義が問題になると続けます。
良い決断 | 悪い決断 | |
運がない | 運がいい | 良い結果 |
悪い結果 | 運が悪い | 運がない |
「それが問題になるのはどういう場面かを考えてみましょう。 例えば、自分にとって不利になるひどい決断を下したとします。あるハンドで、私は相手がフォールドすると確信して大きなブラフをかけたら、相手がコールしたものの、結局はハンドで私が勝ったことがありました。 この場合結果主義では、『勝ったのだからあのハンドをうまくプレーした』と考えてしまうのですが、それは間違いです」。…
「これは私たちがいつもやっていることです。例えば、アメフトで誰かがフィールドゴールを蹴らずに、2 点を狙いにいったとします。 私たちは、失敗したらコーチが愚かだと思い、実際に 2 点を取れば彼らは天才だと思うのです」。
デューク氏は、ビジネス目標を達成できなかったときや、戦略的な取り組みに失敗したときにも、こうしたことが起こりがちだと説明しています。 「『極めて合理的な選択であったのに、悪い結果になっただけかもしれない』とはあまり考えないのです。これが結果主義の問題です」
「予測的後知恵」で結果主義を克服する方法
結果主義は克服が困難なバイアスです。結果はともかくとして、自分の決断が良かったのか良くなかったのか、その理由が分からない場合はなおさらです。 幸いにも良い対策法があるとデューク氏は説明します。
「結果主義を克服するためにおすすめの方法の 1 つが、『予測的後知恵』と呼ばれる手法です。これには 2 つのアプローチがあります。 1 つはバックキャスティングで、物事がうまくいったと想定した上で、その過程で何が起こったかを振り返り 、物事が有利に運んでいることを示す初期の兆候は何だったのかを探るアプローチです。 もう 1 つは、実はより有効な、プレモータムと呼ばれるアプローチで、失敗を想定するものです。このアプローチでは、その過程で何が起こったかを振り返り、
『何がうまくいかなかったのか? 失敗する可能性を示唆する初期の兆候は何だったのか?』と考察します。 プレモータムがより有効な理由は、私たちがもともと楽観的になりすぎるきらいがあり、 良い結果が得られる可能性を過大評価しがちだからです。 バックキャスティングではそうしたバイアスが強化され、より楽観的になり、良い結果を想定する傾向にあります」